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水戸地方裁判所土浦支部 昭和30年(ワ)76号 判決

原告 国

訴訟代理人 舘忠彦 外三名

被告 霞ヶ浦共働開拓農業協同組合 外二名

主文

被告青木哲同矢吹正吾は通帯して原告に対し金三百九十万六千五百十五円及びこれに対する昭和二十七年十二月二十一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は訴状貼用印紙代中金八千五百円は原告の負担としその余は被告青木同矢吹の連帯負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は被告等は原告に対し連帯して金五百六十万八千九百十四円及びこれに対する昭和二十七年十二月二十一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とすると判決竝びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

(一)  原告(農林省の委託事務を処理する茨城県知事)は開拓事業育成のため、これを営む農民に対し該事業に必要な国有財産の売渡等を行つていたもの、被告霞ケ浦共働開拓農業協同組合(以下単に被告組合という)は農業協同組合法に基き設立された法人(同法にいわゆる出資組合)で開拓事業を行う農民によつて設立されたもの、被告青木哲(以下被告青木という)は昭和二十七年四月から昭和二十八年五月まで右組合の代表者であつたもの(昭和二十七年四月組合長に選任されたがその登記を怠つたため登記簿上は右改選前の役名である監事と表示されていた)被告矢吹省吾こと矢吹正吾(以下単に被告矢吹という)は右組合に出資せず従つて法律上組合員ではないが事実上右組合の指導的地位にあつたものである。

(二)  原告は原告所有に係る左記建物につき被告組合から昭和二十一年法律第四三号自作農創設特別措置法第四十一条に基く買受の申込を受けたので、昭和二十七年九月一日右法律に従い被告組合をして同建物を組合員の共同住宅及び作業場竝びに畜舎として使用させるためこの使用目的に違反するときは売渡処分を取消す旨の条件を付して代金二十万千七百十九円で売渡した。

茨城県稲敷郡阿見町大字阿見字阿見原

一、鉄骨煉瓦造セメント瓦葺二階建一棟(俗に船隊兵舎と呼ばれた)

総坪 三百六十二坪一合

二、木造セメント瓦葺渡廊下 一棟

建坪 四坪

三、木造セメント瓦葺便所 一棟

建坪 四坪一合六勺

四、鉄筋トタン葺自動車々庫 一棟

建坪 二十二坪三合

(三)  ところが被告組合においては、右建物を指定用途に供せず第三者に転売するが如き気配が察せられたので、原告は被告組合に対し、昭和二十七年十月二日付書面をもつて前記売渡処分を取消し、その通知はその頃被告組合に到達したので、右建物の所有権は原告に復帰した。

(四)  しかるに被告青木、同矢吹は売渡処分の取消されたことを承知し乍ら、共媒の上、昭和二十七年十一月中旬訴外津久井源蔵外二名に右建物を構成する鉄材、煉瓦、その他を合計金百五十六万円にて売却し、右訴外人等をして同月二十三日から翌月二十日までの間にこれを解体処分せしめて原告の右建物に対する所有権を侵害した。そのために原告は右不法行為時における建物時価相等額金五百六十万八千九百十四円の損害を蒙つた。されば被告青木、同矢吹は連帯して右損害を賠償しなければならない。

(五)  被告青木のなした前記売却行為は、被告組合の代表者である同人が被告組合の職務の執行としてなしたものであるから被告組合にも損害賠償義務がある。

よつて、被告等に対し、右金五百六十万八千九百十四円及びこれに対する昭和二十七年十二月二十一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるため、本訴に及んだと述べた。

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中(一)の事実は認める(二)の事実中渡廊下及び便所の点を除きその余の部分は認める。渡廊下は昭和二十三年頃の台風により倒壊し売渡当時存在せず、便所は同台風により半壊し殆ど使用に堪えない状況にあつた。(三)の事実は認める。(四)の事実に対し、解体処分したのは船隊兵舎一棟のみである。なお解体時における右建物の時価及び損害額を争うもその余の部分は認める。右建物は老朽していた上に戦災で大破された許りでなく、同建物のある土地一帯が解体処分時には自衛隊の飛行場として接収が予定されて居り、建物は早晩解体処分の運命にあつた。以上の事情を考慮すると建物の評価は鉄骨等その資材の時価を基準とするを相当とし、被告青木が右建物資材を訴外津久井源蔵等に売却した価額金百五十六万円は当時の最高価額であつた。解体した資材の内一部は買受人に引渡されたが、その大部分は引渡前解体現場で官に差押えられたので、この分の価額相当額は当然損害額から控除さるべきである。(五)の事実は否認本件建物は昭和二十六年六月頃から昭和二十七年十一月解体直前まで被告矢吹が個人として経営していた浮浪児収容事業に使用して居り、被告組合は昭和二十七年九月一日頃から払下を受けたけれども翌十月初旬頃払下が取消されるまでこれを占有使用したことなく、勿論その後もこれを占有使用したことはない。右建物の解体売却は被告青木が個人の名義をもつてなしたもので、被告組合の理事会の議決も経ていない許りか売却代金は組合のために全く使用されていない。売渡処分の取消された後に被告青木のなした売却行為は被告組合の目的の範囲内の行為とはいい得ない。従つて被告組合には損害賠償の責任はない。

よつて原告の請求に応じ得ないと述べた。

理由

原告(農林省の委託事務を処理する茨城県知事)は開拓事業育成のため、これを営む農民に対し該事業に必要な国有財産の売渡等を行つていたもの、被告組合は農業協同組合法に基き設立された法人(同法にいわゆる出資組合)で開拓事業を行う農民によつて設立されたもの、被告青木は昭和二十七年四月から昭和二十八年五月まで右組合の代表者であつたもの(登記簿上は監事と表示された侭であつた)、被告矢吹は組合員ではなかつたが組合を指導する立場にあつたものであること、原告主張の建物(ただし渡廊下及び便所を除く)が昭和二十七年九月一日原告主張のような条件を付して被告組合に売渡されたこと、同年十月二日右売渡処分が取消されたこと、被告青木同矢吹は売渡処分の取消されたことを承知し乍ら、共謀の上、同年十一月中旬頃訴外津久井源蔵外二名に右建物中船隊兵舎一棟を構成する鉄材煉瓦その他を合計金百五十六万円にて売却し、右訴外人等をして同月二十三日から翌十二月二十日までの間にこれを解体処分させて原告の右建物に対する所有権を侵害し、その額の点については争があるけれども原告に損害を蒙らせたことは当事者間に争がない。

而して証人船木為治の証言によれば、昭和二十七年頃同証人が所管換のため調査した当時、渡廊下及び便所は壊れてはいたが存在していたことが認められるので、これ等も被告組合に売渡されたものと認むべく、証人小室勝一同君塚淳雄同板倉弥太郎の各証言及び被告矢吹本人の第一回尋問の結果中右認定に牴触する部分は措信しない。

原告は被告等は船隊兵舎の外渡廊下、便所自動車庫も共に売却処分したと主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない。

されば被告青木同矢吹は原告に対し連帯して船隊兵舎の売却処分によつて原告の蒙つた損害を賠償しなければならない。

原告は被告青木の前記船隊兵舎等の売却行為は被告組合の組合長である同人が同組合の職務の執行としてなしたものであるから被告組合にも損害賠償義務があると主張するにつき按ずるに、被告青木同矢吹本人の各尋問(矢吹の分は第一、二回)の結果によれば、当時被告青木が偶々被告組合の事実上の組合長であり、その動機において茨城県当局に対する組合の債務の支払等を意図したものの如くであるが、その動機の点は兎も角として、売却行為は売渡処分の取消された後にそのことを承知の上でなされ被告組合の理事会の議決を経ていないことが認められ、証人土屋誠、同島岡満磨、同北教男、同塩谷定夫、同市毛忠、同石塚利一、同大和田春彦、同佐藤信の各証言によれば、売却代金は被告組合のために使用されなかつたことが認められる(甲第六号証の一乃至三及び被告青木同矢吹本人尋問の各結果中右認定に牴触する部分は措信しない)ので、被告青木のなした売却行為は到底被告組合の職務の執行とは解せられないから原告の主張は採用し難い。

次に損害の数額につき按ずるに、成立に争のない甲第二甲証の一、二及び同第三、四号証に証人船木為治の証言を綜合すると船体兵舎の解体当時の評定価格は金五百四十万六千五百十五円相当であつたことが認められる。被告等は当時右兵舎等のあつた地帯一帯は自衛隊の飛行場として接収が予定されて居り、同建物は早晩解体処分の運命にあつたのであるから、建物の評価は鉄骨等その資材の時価を基準とするを相当とし、被告青木が訴外津久井源蔵等に売却した価額金百五十六万円を当時の最高価額と認むべきであると主張し、証人君塚淳雄の証言中には同趣旨の部分があるが措信し難く、なお当時自衛隊の飛行場として接収されることは確定していた訳でもないのであるから解体を前提として評価は妥当であるとは解せられない。

次に被告等は解体した資材の大部分は解体現場において買受入に引渡前官に差押えられたのであるからこの分の価額相当額は損害額から控除さるべきであると主張するにつき按ずるに、成立に争なき甲第一号証に証人君塚淳雄同板倉弥太郎の各証言を合せ考えると、解体した鋼材の全量は四十七頓であり、この内十四頓半が搬出されたので差引三十二頓半が差押えられたものと認むべく、この価額は最高頓当り金四万円計金百三十万円となり、鋼材以外の資材すなわち煉瓦、瓦、鉄屑等の価額が最高金七十万円と推定され、この内約金五十万円相当を搬出したと認められるから差押えられた分の価額は計金百五十万円となるところ、差押物件はその理由は明らかではないが津久井源蔵に還付されたことが認められるがこの分の損害は被告青木同矢吹に負担させるべきではなく、その価額は損害額から控除するを相当と解する。

そうすると、原告の蒙つた損害の額は船体兵舎の評定価額金五百四十万六千五百十五円から差押物件の価額金百五十万円を控除した金三百九十万六千五百十五円であることは算数上明らかである。

よつて原告の本訴請求は、被告青木同矢吹に対し右金三百九十万六千五百十五円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和二十七年十二月二十一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度においてこれを相当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条を仮執行宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 玉井秀夫)

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